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相談室だより Vol.15「 壺中一天地(こちゅういちてんち)」

「カウンセラー(臨床心理士)松本よし子」

 もう何十年も前になりますが、評論家・鶴見俊介氏の
「壺中一天地」 という題の講演の中で、聞いたお話を紹介します。

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 あるところに、高名なお医者様がいました。ある日、彼はいつものように麻酔薬の研究に没頭していました。が、ちょっとしたミスで、いつの間にか、麻酔薬がガスとなって漏れ出てしまったのです。それに気づかぬまま、次第に手足が動かず、もうろうとしてくる
意識の中で、ふと、この世の真理、まだ誰も発見していないこの宇宙の真理が、彼の頭の中に ひらめいた! のです。
 薄れていく意識の中で、このすばらしい真理は、どんなことがあっても書き残さなければと、彼は必死の思いで紙切れに走り書きし、そのまま倒れてしまいました。
 幸い、危ういところを弟子に発見され一命をとりとめた彼は、病室で回復すると、まず、そのメモのことを思い出し、はやるこころを抑えながら読んでみると、果たして、
その 深遠な真理 とは …
   『 こ の 部 屋 に 有 毒 ガ ス が 充 満 し て い る 』  ?・?・?
 今まさに、ガスのために命を落とさんとしている彼にとっては、どんな真理よりも
「この部屋に有毒ガスが充満している」という事実こそ、壺中一天地、その時の彼の世界では、もっとも重要な真理だったのです。

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 あれほど、誇らしく感激してみつけた真理が、助け出された病室では、バカげた色あせたものになる。キツネにつままれたような彼の困惑ぶりが目に浮かぶようです。でも、
何だか愛すべきお医者様だなと、ほほえましく笑える話ではありませんか!

 私達にも、後から首をかしげたくなるような自分を思い出すことがあります。なんで
あんなバカなことをしたんだろうと、時には、いつまでもそれにこだわり、引っ込みがつかなくなったり、逆に、あんなことはなかったのだと思い込もうとします。
 私達の世界(壺中)は、色々な経験を積み重ねて、広く、深く、日々その姿を変えて
成長していきます。 「あんなことさえしなければ…、あの人にさえ会わなければ…、
この職場にさえ来なければ…、あの失敗さえなければ…」と、過去をいつまでも責め、
こだわりつづけている人の壺中は、そこで硬直し成長が止まってしまうのかもしれません。
日々変わる壺中一天地に“絶対不変の真理”はありません。ある過ちや失敗が、いかに非常識でみっともないことであったとしても、また、取り返しのつかないとんでもないことであったとしても、大切なのは、その自分を消し去ろうと忌み嫌うのではなく、その
壺中一天地では、精一杯に選んだかけがえのない真理であり道であったのだと、自分を
受け入れることではないでしょうか。
そうすれば、自分を励まして、乗り越えてゆく勇気 もわいてくるというものです。

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長い人生を歩んできた私にも、消し去りたい過去や恥ずかしい失敗がいっぱいあります。 そんな自分を認めるなんて、とてもできないと思う時もしばしばあります。
 でも、つらい気持ちに押しつぶされそうになるとき、この「壺中一天地」のお話を
思い出しては、自分を励ましていきたいと思っています。

『 反省はしても、後悔はしない 』と言っていた人がいました。
それぞれの人生の年代を経て、いっぱい“反省”はしても、決して自分を見捨てることなく、いつか、愛すべき自分なのだと、ほほえましく笑ってあげたいものです。